ということでバンド名義でシングル『Mulberry』をリリースしました。Bandcampのみオマケトラックが3つ入ってます。
中でも“空白”という歌詞のない曲が何気に気に入っているので自薦しておきます。筆者も遂に“秋田のクソガキ”こと東北きりたんのNEUTRINOとハモることが出来ました。(登録関係が面倒臭いのでこの曲はサブスクに入れず。)
Bandcampだけじゃなくて、4社だけですがサブスクも出してます。
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見ての通り、Cover Artがちょっと違っています。1枚の絵の違う部分をトリミングしているわけです。全体図はこう。
どう見ても精子です。ein Spermiumです。濃厚な赤紫色(マルベリーパープル)の宇宙を一匹(?)の精子が漂っているわけです。彗星なのか精子なのか曖昧な感じで描いているので、どちらかに見えたならば貴方の目は正常です。
作者は筆者です(変な文)。自分はマトモに絵画を習っていないので気合と根性と想像力と冒険心で描きました。
作品名は『マルベリーパープルの宇宙を漂う彗精子(すいせいし)』(painted by 佐藤直哉)です。まあ、今思い付いんたんですけど。
この絵は、先日公開した“マルベリー”のLyric Videoにおいても、随所に素材として差し込まれています。
今回はこの映像作品と絵画作品のこぼれ話を。
1⃣ Lyric Video 『マルベリー』
この映像の一部には、筆者の私物であるGalaxy Note9のスーパースローモーション機能を使用しています。GalaxyとXperiaにしか搭載されていないらしく、昨年末にスマートフォンがダメになって、「どうせヤフオクだしGalaxy Note8でもええかな?」と思ったところをGalaxy Note9にしていた自分はこの機能を知って「よっしゃ!」となり、何となく頭を過ぎったアイディアのためにこれを使うことにしたわけです。
ニコニコも貼っておこう。いいねしてマイリス追加してもええんやで?(お願いします…。)
…で、そのアイディアというのが、動画内で使われている桑の実(マルベリー)にワインや水をぶっかけたり、ワインに桑の実を投げ落としたりしている謎の映像です。
これらはバンドの5-6弦ベース担当のRyutoに協力してもらい、彼の自室のテーブルの上で撮影したものです。
この映像がどういう意味なのかと問われれば普通に自分でも意味不明なのですが、ただスーパースローモーションで細かい動きまで撮影された映像って、液体が滴ったり物が飛んだり跳ねたりする様子というのが定番の美しい映像だというのは誰にも考えつくと思うんです。
そんで歌詞が「マルベリー色の宇宙」で始まり、終盤で「マルベリー色を纏い」と来て、「マルベリー色に成る…」を連呼してフェードアウトするわけです。
それじゃあ、実物のマルベリーが更にどっぷりマルベリー色になる映像を作るのが良いんじゃないかと直感したわけです。もう単純に理屈抜きの思いつきで。
映像中に出てくる果実はドライホワイトマルベリーと民家の庭で収穫されたブラックマルベリー。どちらもフリマサイトで購入し、一部軸を抜いてフリーザーバッグで冷凍しました。
液体はただの赤ワインではなく桑の実ワイン。そこは作者としては本物の「マルベリー色」でなければ納得できなかったから探してネット注文しました。それからRyutoのアイディアで水道水も使いましたが、これも中々味のある映像になってくれました。
Galaxy Note9のスーパースローモーション(960フレーム)を使うと、通常の動画の中に約0.4秒間を約12秒かけて再生するシーンを断続的に20回挟めるため、プロ用のカメラのような長時間の録画は不可能であるものの、通常スピードとスーパースローとで独自のテンポの緩急が出せるので、これを逆手に取るような編集を施しました。
ただ、編集はめちゃめちゃ苦労しました。1番のAメロあたりまではスムーズにいったものの、映像素材が似たりよったりであることと、日頃動画制作をしておらず、Davinci Resolveに慣れていない自分は、Bメロやサビで魅せるシーンを生み出すのに漠然としたアイディアがあってもどうしても煮詰まってしまったわけです。
一旦Cover Artを使っての怒涛のアウトロに着手したものの、やはり中盤が何をどうしたら良いか解らず、予定していたお盆での完成は実現せず。
ただ、9月になり、思い切ってシーンの切り替わりをブレさせたり、自分の目の映像を撮ったり、万華鏡エフェクトを掛けてみたりしたところ、どんどんアイディアがまとまっていって一気に完成させることが出来たというわけです。
元々はこんな細かい編集はせず、かなりざっくりとした単調なLyric Videoにしようと思っていたのですが、まあ、そんな半端なものを作るのは自分には逆に無理でした。
されど、所謂「文字PV」的なものを作ろうとしているわけではなかったから、文字にばりばりアニメーションを付けるのは違うと思ったし、しかしLyric Videoと言えども、字幕の出るタイミングなどが絶妙でないと気持ちよくない。サイケデリック感が出せないということで、これぐらいの動きに落ち着いたというわけです。
2⃣ Acrylic Painting 『マルベリーパープルの宇宙を漂う彗精子(すいせいし)』
……LirycとAcrylicで韻を踏むのは舌が回らなさそうだ。
というわけでCover Artについて。訳が解らん下ネタやんけとしか思わない人に対してはわざわざ理解を求めなくてもいいかな、と思ってます。訳が解らんでも良いのです。
個人的にはベッタベタかなと思ったんですが、ベッタベタでええやんけということで採用しました。
自分はEdvard Munchが好きなのだけれど、彼が絵画の中でたまに使っていた精子のモチーフっていうのが気に入っていて、有名な『マドンナ』の版画の縁とかでも見られるんだけど、どちらかと言えば『宇宙における邂逅(Encounter In Space)』のイメージです。
まあ、自分にとって定番というか様式美なモチーフであるならば、発想丸パクリでオリジナリティがないと言われるとしても記号としてシンプルに倣ってもいいかなと思いました。(皆も描こう!精子!)
精子が生命の神秘を象徴しているなんていうのは安直に思われるだろうし、でも、だからこそ彗星みたいに宇宙を彷徨っている姿をドドーンと描いたらCover Artとして良いのではと自分の愚直なる発想をバカ正直に全肯定してみた結果なのでした。
また、そもそもこのシングルは、ドラマーがリハスタに参加できず、昨年末に我ながら渾身の出来だと言わざるをえない曲が生まれているにも関わらず、1月のMOJO以来バンドでの演奏が出来なくなってしまうという、とてつもないフラストレーションに殺されそうであった状況で制作を決断しました。
バンドメンバー募集用の1曲も兼ねて、「全メロディ・全リリック・全アレンジ・全アートにおいて佐藤直哉ひとりの責任で」制作し、思い切ってシングルとしてリリースすることにしました。それ故に、リリースこそバンド名義になっているものの筆者以外の人間の手は一切加わっておりません。(自分の責任だからこそ、「もうちょっとどうにかならなかったのか…」という部分はあるし、「本当はバンド名義でソロ音源なんてコレ以上やりたくないのだが…」というのも本音なのですがね。)
Ryutoの参加もLyric Video用の映像撮影のみです。(とは言え、物凄く重大な役割を果たしてくれたので、この場を借りて深く感謝の意を申し上げる。)
そういうシングルだからこそ、宇宙の何処かへ向かっている精子というのは生命の誕生、生まれ変わりというようなニュアンスも持っているかなという気持ちがありました。
ここまで活動がダレたからにはリセットのつもりで再生させたい。メンバー募集を経て、そういう風に新しい段階に入っていきたかった。そういうニュアンスもあります。
また精子だけに男性的な部分というか、自己自身とは非相似形の1個の大きな対象(そういや生物学的には配偶子が大きい方をメスと呼ぶらしい)を求めて彷徨っている迷子な感じが出せるのもいいかなと。
一方で自分な好きな色であるマルベリーパープル(桑の実色)って、検索すると女物が多いのです。バーガンディとかボルドーとか臙脂色とか、或いはダークピンクとかよりも色相的に紫側にあるっていうのが絶妙な位置で、まあ、濃厚な暗い赤紫色って基本的にはフェミニンという印象を与える色なんだと思います。
そこに同一化するというのは倒錯的にも聞こえるだろうし、シンプルに女が大好きな変態っぽくも聞こえると思うんだけど、まあぶっちゃけどちらでもいいです。そういう色の宇宙にトリップしてる精子だと思うと何だか愉快な感じがする。少なくともこれを描いた自分としてはね。そして、そういう色に偏執的に拘っている自分としては。
紫がグラデーションになっている宇宙の中でも、これぞ“マルベリー”な感じがする赤紫色が際立つまで何度も何度も塗り直した。数時間、キャンバスだけに全身全霊を集中した。白絵の具のスパッタリングに失敗したらまた上からターナーのミキシングマゼンタやミキシングバイオレットを重ねて、重ねて、おかしくなるほど重ねて、俺を幼少期から魅惑してやまないアントシアニン色素の色をアクリルガッシュで再現した。果てしなく濃厚な赤紫の暗黒を、マルベリーの宇宙空間を描いていった。
これだけの赤紫一辺倒の絵画で生命の神秘を描き出すというのは、偏食男子代表としての執念の見せ所だったと思う。とはいえ勿論、部分部分にもっと青紫寄りの色を混ぜ込んでいるし、マルベリーパープルの指す範囲の広さも含めて、この<1匹の精子がゴールを目指してダイヴし渾然一体になるべく溶け込んでいく宇宙空間>の彩りを少しでも感じていただけたらコレ幸いであります。
ところで最後に、これもう完全に与太話なのだけれど、日本語には「桑の実色」の別名があるんですよね。
それが「どどめ色」です。ブラックマルベリーって、その名の通り、熟したら当然赤紫から黒紫とも言うべきダークパープル感を増していくわけです。
「どどめ色」なる言葉には「曖昧な色」とか「病的な色」とかのニュアンスもあって、それだけでもう中性色たる紫系の比類なき至高の特性を示唆している気がしないでもないが、何よりも世間では「女性器の色」として言われることもあるのだとか。(https://pouchs.jp/couple/sex/117W3 「乳首の色」でもあるのか…。)
作者自身がこういうことを書いちゃうと、Cover Artどころか曲のニュアンスにも影響を及ぼしかねないですが、俺の直感と思考が及ぶこと、及ばないこと、何でも自由に想像して下さい。
元々は考えていなかったことをどんどん後付けしていくと面白いんだよな。
それこそ絵の具みたいにね。濃く、濃く、もっと色濃く。病的なほど執念深く。もっと血のようにドロドロと、もっともっと生々しく、全てがそこに向かって収束していくように。
終わりです。音源聴いてね。
── 文責:佐藤直哉